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マイ・インターン(ハンカチを人に貸すのはありなのかな?)

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 おしゃれほのぼの映画です。 
 デ・ニーロとアン・ハサウェイ。国内での売り方は「働く女子の応援」映画。頑張りすぎて周りがついていけなくなり、自分もだんだんも身動きが取れなくなってきた女子経営者が、人生経験豊富な老人によって助けられ、励まされ、ぜーんぶ大団円(?)、というファンタジー。そもそも「悪い人」がひっとりもいない(映画的な意味では、ですが。日常生活という観点からだと無免許運転だの家宅侵入器物損壊だの不貞行為だののオンパレード。作品的には「それらは全て最後には肯定的に扱われる」わけですが)小物感漂う世界なので、大した事件は起きません。コーヒーカップの中の波風程度。それにしても、ドタバタしているうちになんとなく収まります(解決はしない)。多分、ドラマ性で言えばこれほど「事実は小説より奇なり」なんだよ!と言いたくなるものもないかも。
 あざといのは邦題とパンフレットです。もとのタイトル”The Intern”に「マイ」の一言を貼り付け、おしゃれ雑誌風のテイストのパンフレットを作り、アン・ハサウェイ中心の「今時の働く女子」にアピールする、というのは配給会社の戦略だったのだろうし、実際におしゃれ小物以外には画面に見るものもあまりないので「そういう客」を呼び込んで正解だったのかもしれないけれど、これ、原題の通り主役はインターン本人であるデ・ニーロです。定年退職し、妻に先立たれ、やることも居場所もなくなった老人が「あるきっかけ」でシニア・インターンに応募し、世界観の違う若者たちと触れ合うことで(「おばあちゃんの知恵」めいた秘密兵器も駆使しつつ)再び自分の居場所を手に入れる物語。
 予告編ではアン・ハサウェイが社内を自転車で移動しているシーンが目立ちますが、あれは彼女が「工場跡で起業した」説明シーン。そして、デ・ニーロがここのインターンに応募した理由自体がこの建物にあった、というくだりがこの作品の一番の突出した見所です。冒頭の「ある古い工場を会社にしたらしいわよ」からスタートし、ここが以前の印刷工場だった時は、あの窓の席に座っていたんだよ、というセリフをターニングポイントとして、この映画は老人の半生を折り返すのです。
 ドラマとしては大したことが何一つ起きない代わりに、日常の小ネタはいい具合によくできています。そこに円熟したデ・ニーロの魅力が重なることで一本の映画としての体を保ちました。しかし、このロバート・デ・ニーロ、観察力といい行動力といい只者じゃないんですねえ。こういう人、実は知ってます。ヤクザの親分さん。優しく穏やかな人あたりで、なおかつ、強烈な観察力で周囲を把握し、必要に応じて周りの人間を適切に動かしていく人。何のことはない、「いつもの」ロバート・デ・ニーロなんです。いや、さすがに爪は切ってるしゆで卵を食べる悪魔ではありませんが。あと、インターン仲間の若者達がどうしてもアントマンの三馬鹿を連想させちゃうあたりが、ねえ(あれほど有能ではないけれど)。ハンカチだの襟だのネクタイだの、監督が若者風ブンカになんかモノ言いたげなのも伝わってきます。でも、その監督の世界がこんなに嘘くさくも「いい人だらけ」なのでその辺りの若者への毒針もききめはナシ。そういうものです。待っていてもいつまでもメインディッシュはでてこないけれど、テーブルの上にはかわいいスイーツでたくさんなのでそれでおなかいっぱいになってね、という方向性。
 一つだけ、日本での売り方がマズかったのは、この作品は全く「働く女性を応援」なんざしていない、という点でしょう。何しろ、どうして会社がこんなにも短期間に成長したのかの説明は希薄(多分、監督の感覚では表現しきれない)上、仕事と部下と家族のバランスが崩れているという大問題を全て投げっぱなし、何一つ解決せずに終わってしまうのだから。この映画の中では、インターン仲間の若者たちがデ・ニーロのおかげで「ほんのすこしだけ」成長したのが収穫、でしょうか。会社は、「なにも変わりません」。つまり、社長はあいかわらずいそがしすぎるまま。そんななか、ひとり主役のデ・ニーロだけは人生の居場所を手に入れて充実しています。これ、社長がオーバーワークだ、というのにどうして「じゃあCEOを」になるのかしら、とかも思う。順当に考えると、流通のプロとかを社長の下につけて仕事を減らす、という方向でしょう。せめて副社長として有能なアドバイザーを招聘する、とかでないの? 社長の忙しさをなめてんの?
 ちなみに、これを見たある女性の感想は「結婚って面倒くさいね」でした。

 それにしても脳内ポイズンベリーといいこれといい、配給が「女子向け」を押し出す作品って「物語がなにひとつすすまない」ようにするお約束でもあるのだろうか。