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「美術館を手玉にとった男 art&craft」 (ピカソでもムシュタシュはだめ)

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 当初は、贋作作家という単語に誘導された期待で見始めたのだけれど、あっという間にそれが間違いだったことに気づく。これは、とても不思議な気配をまとったドキュメンタリー。

 ある一人の社会不適応者が己にできることを探し、見つけていった人生の足跡なのだけれど、実際には彼の極度のナイーブさは見事なまでにしたたかな性格と生きざまに結実し、ラストにはある種の爽快感すら与えるのだ。

 贋作を寄贈するランディス統合失調症などを背景に持っている。写真の専門学校に通い、撮影技術は身につけたけれど「撮りたいものがなかった」ために作品は残していない。その彼がオリジナルではなく贋作を作るのはまさにそこに理由がある。彼は、自分のやっていることはcraftだ、という理由もここだ。でも、彼の主体から離れてしまえば彼の作り出したものは明白にartなのであって、だからこそラストの個展も成立する。「創造性」という代物が対象や結果ではなく、当人の精神活動によって定義される、ということでもある。(さて、小遣いが足りなくなったダリが未使用の版画用紙にサインだけして売りさばいたアレはartなのかどうか)

 これは、一人の人生の再生の物語であると同時に、「物の価値」や「真贋」についの問題提起も兼ねているし、それはどらかというとシニカルな視点でつらぬかれている。ラストシーンの後味はまさに邦題そのもの。にやりとしたままエンドクレジットが流れるのはうまい。