原作と大きく違います。でも、原作のテイストはしっかり残っている、という不思議な出来上がり。原作のラストがホームズの孤独で締めくくられていたのに対して、映画では前向きな幸せを予感させて終わります。ウメザキの父親が家族をすてた理由も、映画ではホームズによる「心優しい嘘」にも見える、という構図に。なによりも少年が死にません。確かにこっちのほうが見ていて気持ちは楽です。
イアン・マッケランは見事に60歳と93歳をリアルに演じ分ける、という名優っぷり。見ていると介護の心持ちになってひやひやします。
小説読んでいると「おみやげのニホンミツバチ」ってガラス瓶に入っているイメージだったのだれど映画では樹脂で固めてあります。これを「ガラスに入っている」というのはちょっと難があるよなあ。サンショウ見つけるのも、原作では広島の公園跡からさらに汽車で移動した先だったのに、尺をまとめるためかもろに爆心地に青々とサンショウが生えていることになってしまっていて、これもちょっとなあ、と。
海岸がセブン・シスターズの見える場所、というのはずるいです。チキチキバンバンや昔の恐竜の絵本で「白亜紀の地層」として紹介されていたあの白い断面の美しさよ。しかし、カンバーバッチとこれで、ちょっと斜めにはいったホームズ作品が続いてしまったから、いま求められているのは「正統派」ですよ、ということになるのだけれど、誰かつくっているかねえ。ガイ・リッチーのがどうなるか、かな。
この作品の一番大きな功績はホームズの時代設定は近代のここにまでつながりうるのだ、ということを端的に示して見せたことでしょう。すでにひとつの「文化」ですからねえ。