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コン・ティキ(科学者の仕事は常識の間違いを正す事)

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 よもやこんな映画がつくられていようとは。
 ヘイエルダールの「コン・ティキ号探検紀」といえばさまよえる湖やツタンカーメンと並んでドキュメンタリーの王様です。実家にハードカバーがあったので子供の頃に何度も熟読しました。今回の映画のおかげで文庫が重版されたので再読し、懐かしい思いでいっぱいです。

 ボリネシアンはアジアから来た、という「常識」が席巻していた時代に、文化的背景をベースにしてペルーから人が渡った、という主張をしたら、出版社も学会も門前払い。ならば実際にやってみせようじゃないか、という反骨の物語、です。しかし、かえすがえすもナショナルジオグラフィックくらいはちゃんとスポンサーになってあげるべきだったのではないか、としみじみ。

 Based on the Life of Thor Heyerdahl、がおしゃれ。書物ではなく、本人の人生を映画にしましたぜ、と。もちろん、限られた映画の尺なのでいろいろと省略されています。バルサを調達する話とか、トール以外は出港時に取り残された話とか。トールの息子によると実際に航海の中で大変だったのは5日程度だった、ということなので、映画後半のまとめ方もよい感じ、でしょう。

 たぶん、著書に慣れ親しんだ人にとってはお気に入りのエピソードがはいっているかどうかが気になるだろうなあ、と。個人的には、バルサへの水のしみ込みをこっそり確かめるシーンとかサメの尻尾つかんでひっばりあげるシーンとか、トビウオやシイラがついてきているシーンとかがあったのは○。あと、一緒に旅をしたカニも。
 わかってはいるけれど、バルサ調達の時のエピソード、フイルムの現像がうまくいかなくて無線でアドバイスをもらい氷を作ってみせる話、海水の塩分を舌が感じなくなる植物の話、ボートから筏を眺めて爆笑する話、そして、垂下竜骨の機能をたまたま発見する話がなかったのが残念。特に、竜骨は当時の筏の性能を示すエピソードだったからなあ。

 でも、探険記のイメージそのもの、という映像になっています。俳優さんたちもそっくりだし。さらに、トールJr.によると、劇中では本物の家族写真も使われていたとのこと。そして、筏自体がトールの孫のオラフが実際にペルーからポリネシアに渡ったものを使っているという、どこまでも本物志向なのです。

 DNA鑑定などから、ポリネシアにはアジアからも人がたどり着いていた事も最近ではわかってきたということだけど、それでも「事実として」ペルーからポリネシアまで筏で渡る事が可能と示したトールの心意気、それが実に小気味よく伝わってきます。奥さんとの離婚を最後にもってきていますが、それでも息子のトールJr.は父親との関係も良好で海洋生物学の道にすすみ、いまではコン・ティキ博物館の理事をつとめているとのこと。

 海が美しく、自然が美しい。アカデミー賞をとったオリジナルの映画もみたくなります。そして、オスロのコン・ティキ博物館に行きたくなりました。そのうちゆかねば。