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ブレードランナー2049(「前作で十分ですよ」 あるいは 「(監督は)奇跡を見たことがないのだろう」)

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 お金をかけまくったので映像はきれい。そのおかげでなんとか2時間40分を耐えられました。シン・ゴジラと違うところは映像が美しいので途中で箱に入ったこと自体を後悔したほどではなかった、というあたり。映画の中身は…なんともいえないなこれ。そもそもの前作自体、ディックの原作を大胆にアレンジした結果、時代の要求とマッチしてカルト化した、それ自体が映画として一つの奇跡だったわけで、それをさらに大胆にいじって「続編」なんかつくられてもなあ。
 「ブレードランナーの続編始動」「ハリソンフォードも出演」と聞いて心ときめいたのはもう随分前で。その後のリドリー・スコット作品がプロメテウスだったりコヴェナントだったりしたために不安が増してきたり、ドゥニ・ヴィルヌーブ監督については「メッセージ」という盛大なる羊頭狗肉を見てしまってがっかりしたりしているうちに公開です。国内でも「評価しているコメント」の主をリストアップしているうちにさらにげんなりしてきたりして、それでもディック好きとしてはやはり見ないわけにはいかない、と。そしたらこれですよ、ほんと。一言で言うなら長大なる針小棒大

 感想は、「人間、歳とるとこういうのをやりたくなるんだよねぇ」です。物語は雑。レプリカントの扱いも雑。これみよがしな「ディックっぽさ」も雑。これに対して「ディックらしさが表れている」みたいな評を掲げている人たちはたぶんディックをちゃんと読んだことのない人か、ディックをファッションかなにかとして扱っている人でしょう。製作陣には「(前作という)奇跡を見たことがないのだろう」と言いたいけれど、後ろにいるのがリドリー・スコット本人、というところが絶望の源です。「上映時間の問題」なんかじゃない、もっと映画作りの根幹に関わるところでなにかがずれている。

 「1から2048を見ていないのですが楽しめますか?」というネタがありました。「1を見ている人は楽しめないかもしれません」と答えましょう。なんというか、強いて言えば環境ビデオ、かな。あるいは贅沢なコラボアンソロジー? 前作のブレードランナーのファンにも、フィリップ・K・ディックの小説が好きな人にもちょっとおすすめし難い。「前作を見ていないと楽しめない」という人もいましたが、いや、さんざん前作をみていて「も」。細部のあれやこれやも、前作のファンに口のうまい営業がリップサービスしているような感じで、いまひとつ映画に溶け込んでいないし。とりあえず見たことのあるようなものをだしときゃ喜ぶ人たちにはサービスしますよ、というスタンスもみえみえです。あの時代の前作がそうだったように、「今の時代だからこそ」のブレードランナーという新しい奇跡が見られるかと思ったのだけれど、なんともはや。町山氏は、この作品はタルコフスキーをやりたかったのだ、みたいなことを言っていますが、その割には中身があまりにも薄っぺら過ぎます。たぶん、製作陣はタルコフスキーだってちゃんと見ていないのではないかしら、と言いたくなる。

 「左目を見せろ」「私の左目を確認したいの?」というセリフで「レプリカントのコードが記載されている左目」が脚本的には出てきますが、Kがくり抜いて持ち帰るのも、レジスタンスのリーダーがくり抜いて見られないようにしているのも「右目」です。あれを「左」というのは対峙した側の立場から「向かって左の」という意味であって、「本人の左目」ではありません。脚本がえらく雑なのか、レプリカントたちもなんだかんだいっていても自分たちはただの主体性のない被造物だという自覚をもっているのか、どっちでしょうね。どっちにしても酷いはなしなのだけれど。
 そもそも、今作では「レプリカントかどうか」というのも「骨に小さく番号が入っている」かどうかくらいしか人間と見分けがつかない、という事になっているわけで、そこまで人工生命として仕上げておいて「出産は奇跡だ」とか「あってはならない」とか生命工学なめてんのか、という。なんというか、いわゆる「賢い人が誰もでてこない」タイプの映画なのです。製作陣、よもや聖書をほのめかして親子と差別をネタにすれば社会派、とか思っているんじゃないでしょうねえ…そういうのをやりたきゃもっと上手に物語に埋め込まないと。

 「あんな汚い役はもう嫌だ」とまでいわしめた前作のハリソン・フォード、これのあとはインディジョーンズも控えているそうで、うーん、それでいいの?という気もする。
 あと、「ジョイ役のアナ・デ・アルマスがかわいい」という意見も結構あるみたいなので、ぜひ「スクランブル」をどうぞ。映画としてはところどころ粗いけれど、アナの魅力としてはスクランプルのほうがうまくでていたと思うので。