Anything Goes (again) ...

Yahooブログから移りました

オレの獲物はビンラディン "Army of One"(アメリカの恐ろしさ)

イメージ 1

 ポラットのラリー・チャールズ監督。実在のおかしな人物を、ニコラス・ケイジが熱演しています。実在の、ということを考えさえしなければ、頭のおかしい、行動力だけは山のようにある「愛国者」の物語。バカ笑いしながら見終わって、エンドクレジットに「本人」が登場するのを見てこれが「実話」であったことを思い出し、そして背筋を冷たいものが走ります。(また、ニコラス・ケイジが本人に似ているんだこれが…)
 主人公の妄想に近い思い込みは、正しいと信じる信念のためであればどんな逸脱行為も厭わない、という勢いがあります。そして、その「信念」の背景は「神」です。非常識と行動力と傍若無人の塊の本人が、その自分が「目撃した神」の前ではひたすら怯えた子供のようになる。信心深さが愛国心と連結され、あらゆる免罪を彼の心にもたらしています。「神」は彼にだけ見え、彼にだけ聞こえる存在としてあまねく遍在し、人物として現れ、話しかけ、アドバイスもする。彼は、「神が見える」ということを他人に伝えると自分は頭がおかしいと思われるだろう、ということを理解できる程度には正気です。そう、彼は「正気」なのだ、というところがこの物語のもう一つの恐ろしさです。
 アメリカ人がなかなかダーウィンの進化論を信じない、とか、アメリカ人は「神の実在」を信じている、とか、アメリカでは無宗教では生きていけない、とか、そういった色々な断片がこの映画で一つに繋がります。
 たぶん、ディックがVALISと表現したなにか、なのでしょう。たぶん、アメリカには「こういう出会い」によって神への信仰を揺らぎのないものにしている人がほかにもいるのでしょう。信じているからこそ、実在であるからこそ、とてつもないコメディになったし、だからこそ、これはとてつもないホラーです。