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ダンケルク(だからこれは「戦争映画」じゃないんですってば 映像的にはよくぞ撮ったり、ではある)

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 戦争の一エピソードを舞台に選んだ映画(戦争映画とは言ってない)です。分野分けするならば、シチュエーションサスペンス、あたりかな。

 クリストファー・ノーラン監督というとこだわりと長尺と重さ、という印象だったのだけれど、なんと106分。監督のことだからてっきり3時間越えを覚悟していたのに。でも、中身はまるっきりいつものノーラン作品でした。106分、淡々とよくぞこれを撮ったな、という映像が続いて続いて続いて、そして終わる。これは、イギリスにとっての「ダンケルク」を知らないと響くものがだいぶ変わってきそうです。個人的には、舞台となっているオステンドの西側の海岸(ダンケルク)が「見たことのあるモノトーンな遠浅」であったり、スピットファイヤーがやたらとかっこよく表現されていたり、船が実物大で沈みまくったり、あと、イギリスではいつもの白亜の地層をみることができたり、と、随所随所で楽しみましたが。
 娯楽としての映画を期待していくと、たぶんだめ。これは、「こんな映像よく撮ったなあ」と呆れながら1時間半をノーランの目線にあわせる作品。「物語性」は、いいきってしまうけれど「ありません」。それは「ダンケルク」という名詞で「わかるひとには事前にわかること」だからでしょう。「ドイツ軍においつめられたけど、みんなでがんばってたくさん撤退できました」というストーリーの大前提が事前の共通了解事項としてすでにタイトルに含有されている。だからこそ、1週間と1日と1時間を切り繋いで90分にまとめあげる、なんていう強引な編集もできてしまう。これ、バンフレットなかったらしばらく悩んでいたところです。結構不親切。ノーラン監督自身もそのあたりはたぶん自覚していて、これは「映像を愛でる」のが正解なのだと思われます。だからこそのIMAX推し、だからこその「フィルムアピール」。でもこれを普通の人はわざわざIMAXでみるだろうか…画面の上下がばっさりと切られちゃうからIMAXで見てね、というのもちょっとなあ、と思うし。

 「大規模な撤退戦」というシチュエーションを大フィルムに収めることが主眼の作品なので、けっして「戦争を描く」ことにバランスをおいてはいません。そのあたり、少し前のハクソー・リッジとは全く異なる。なので「敵」も実質的に不在です。ほぼ、見えないところから撃ってくるだけ。メッサーシュミットも「え?」と思うくらい活躍しない。Uボートも別に姿をみせるわけではない。敵だけでなくどころか同盟国のはずのフランス人の存在すらも稀薄です。「戦争映画ではない」のだから当然なのですが、負傷兵の表現もファンタジーです。そういう部分のリアルはたぶん故意に切り落とされているから。チャーチルと犠牲少年のとってつけたようなシニカルなテーゼがあることはあるけれど、いかにもとってつけたような代物ですし。

 映画好きが、「すごい映像」を堪能しつつ脱出劇と閉塞感のサスペンス、そしてドーバー海峡の景観の切り替わりを経験する一本。なので、やはりIMAXがおすすめ、だと思うし地上波どころかBDで見てもこの感じは再現できないだろうなあ、と思いつつ、ではIMAXで見直して見そびれた画面の40%を経験するか?といわれると、あまりそんな気にもならない、そういう微妙な感じが残ります。あと、まだコメントでていないみたいだけど「通常スクリーンでの上下トリミング」はもしかすると監督の構図として想定済みなのではないか?疑惑もありますし。

 ハンス・ジマーの音楽は実に良いできでした。個人的にはノーラン監督の作品ではインセプションがいまのところ一番好みかな、という感想。弟のジョナサンも映画を監督しないかしらね。